Sustty編集部がお届けするSDGs情報です。
こんな疑問に答えます。
この記事を書く私は、サステナブルに興味がある研究開発者です。最先端の技術を調査しながら、今と未来の社会に貢献するモノづくりやソリューションをつくっています。
さて今回は、今世界で最も注目されている技術、人工知能(AI)がSDGsに与える影響を考えていきたいと思います。
まず初めに言葉の定義を紹介します。
✔︎人工知能(AI)とは
人工知能(AI)
人工知能(AI)とは、学習・推論・判断など人間のふるまいの一部をコンピューターを用いて人工的に実現したもの。経験から学び、新たな入力に順応することで、人間が行うようにタスクを実行することを目指す。
AIの現在までの応用例としては、チェスをプレイするコンピューターや、画像認識、言語翻訳、自動運転車などが挙げられます。また、今回の記事で取り上げるAIには、以下のような機能を含むコンピューターを含んでいます。
- 音声や視覚、テキスト、触覚などの知覚(例:顔認識など)
- 意思決定(例:医療診断システム
- 予測(例:天気予報)
- データからの自動知識抽出およびパターン認識(例:ソーシャルメディアのフェイクニュースサークル)
- 相互コミュニケーション(例:ソーシャルロボットやチャットボット)
- 論理的推論(例:理論構内からの開発)
AIの出現により、ほぼ例外なくすべての分野が影響を受けて変化していくとされています。例えば、産業における生産性、公平性などの社会の構造、環境分野、コミュニケーションや金融の仕組みといった様々な分野が影響を受けていきます。
AIという言葉だけ聞くとSFや未来の話かと思われるかも知れませんが、その応用は既に私たちの生活にも根付いています。例えば、皆さんが見ているオンラインの動画コンテンツやオンラインマーケットの商品もAIによるお勧め機能によって提案されています。
このような現状を鑑みると、私達が望む望まないにかかわらず、世界のAI開発は今後も加速していきそうです。AIのような新しい技術はSDGsのすべての側面に影響を与えるとされ、メリットとデメリットの両方の影響が議論されています。そこで、本記事では、AIがSDGsに与える影響の全体像と具体例を、研究結果を通して見ていきたいと思います。
今と未来の在り方を考える上て、現状を正しく認識していくとはとても大切です。世界を席巻する最先端の技術AIの影響をしって、もういちど普段の生活を見返してみると、なにか新しい気づきがあるかもしれません。
目次
SDGsとは?
そもそもSDGsとは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。17のゴールに分かれていて偏りなく「持続性」を推進できるように作れています。
SDGsは、17のゴールに分けられており、それぞれのゴールを達成するために細かく決められた169のターゲットから構成されています。
詳細については次の記事で紹介します。
関連記事:【完全ガイド】SDGsとは?初心者のための分かりやすい網羅書
人工知能がSDGsに与える影響は?
ここからは人工知能がSDGsに与える影響について紹介します。
人工知能がSDGsに与える影響の割合
2020年にスウェーデンの研究機関が、世界の研究者の意見を総合してAIのSDGsへの影響を調査しました。
その結果によると、SDGs169のターゲットのうち79%がAIによってよい影響を与えられ、残りの21%程度の項目に悪影響があるとされています。
人工知能が影響を与えるSDGsの分野
ここでは、AIとSDGsの関係の全体像をつかむため、SDGsの項目を社会、経済、環境の3つのカテゴリーに分けていきます。対応するSDGsの項目は下記のようになります。
3つの分野いずれにおいてもAIによる好影響の方が大きいという予測がされています。具体的に、社会的なメリットが82%、経済的なメリットが70%、そして環境へのメリットが93%と分析されており、特に環境分野におけるAIの好影響が大きいようです。一方で、使い方によってはそれぞれの分野においてAIのデメリットが生じていきます。この調査では、特に経済の分野においてその懸念が大きくなっています。
では、具体的にAIが与える影響はどのようなものがあるのでしょうか?それぞれの分野におけるメリットとデメリットを述べていきたいと思います。
人工知能がSDGsに与える「社会的な」影響は?
まずはAIがSDGsに与える社会的な影響を見ていきましょう。
AIの社会面でのメリット
AIがSDGsに与える社会的なメリットとして、食糧や健康、水、エネルギーに関連するサービスを支援することで、社会に密接に関連した貧困の撲滅(SDGs 1)、質の高い教育(SDGs4)、きれいな水と衛生(SDGs 6)、手頃な価格でクリーンなエネルギー(SDG s7)、そして持続可能な都市(SDG s11)といった目標の達成を助ける効果が期待されています。
例えば、AIはさまざまな都市において、車やバイクの走行をモニタリングもしくは自動化することで効率の良い移動手段の制御を可能とし、都市としての機能を高めることが考えられます。また、人の社会に必要な資源が循環したサーキュラーエコノミーと呼ばれる持続可能な都市の実現にも貢献していくとされています。
AIによって電化製品やヘルスケア商品がよりスマートになり、センシングや情報処理を通して人々の健康状態や食事の摂取量がリアルタイムでチェックされると、健康の促進につながっていきます。さらに、AIを用いた安価なオンライン教育サービスが登場することも考えられ、その場合は教育サービスの普及が促されます。
その他の応用分野として、晴れの日や風が吹いているときに電力の需要が高くなるように、エネルギーの需要と供給を調整することで、変動するクリーンエネルギーを効率よく使う事にも役立ちます。
AIの社会面でのデメリット
ただし、AIによるSDGsへの社会的なデメリットも指摘されています。
✔︎AIによるSDGsへの社会的なデメリット
① 可能なエネルギーの消費
② 不平等や格差の増加
① 可能なエネルギーの消費
まずAIの機能に必要なエネルギーの消費が考えられます。高度なAIの研究はアメリカや中国などの経済大国で行われていますが、その研究やおよび製品設計は日々大規模なものになっています。
そのためAIの計算に必要なセンターなどの施設では大量のエネルギーが消費され、今後何も対策がなければ二酸化炭素の排出につながってしまいます。
2030年には情報通信に必要なエネルギーが世界全体のエネルギー量に20%にも上るという予測があります。
エネルギー消費の影響を無視してしまうと、エネルギーの供給不足や気候変動の悪化につながることがあります。
そこで最近では、データセンター向けの効率的な冷却システムに加えて、再生可能エネルギーベースのエネルギー利用が効率的なデータセンターの運用がなされています。
また、AIのモデルをいかに効率的にするかも課題です。例えば、人間の脳は少ないエネルギーで複雑な思考や計算をしています。このような知識モデルを導入して、AIのトレーニングに必要なデータ量を減らそうという試みもあります。
② 不平等や格差の増加
AIは多くの人の生活水準を上げるものと期待されている一方で、不平等や格差を増加させるリスクも有しています。
これまで、AIはそれを開発する国々の、特に富裕層のニーズをベースとして開発されてきています。そのため、AIの普及には国の間や国内で大きな隔たりが存在します。
例えば、AIによって便利になった農業機器は小規模の農家には行き届いていません。
その結果、先進国の大規模農家のみがAIの恩恵を受け、貧富の差が広がる恐れがあります。
教育の場面においても、オンラインでの教育プログラムや双方向なサービスが広がる一方で、通信機器をもっていない方々はそのような教材を手にすることもできないのです。
このようにAIの普及の度合いにより、格差が生じてしまう可能性があるのです。
また、AIのジェンダー平等やその他の平等への影響に関しても注意が必要です。
例えば、AIの基本的な機能は、言葉や画像などの今ある情報を用いて、今後の動きを予測したり、意思決定したりすることにあります。
そのため、例えば、日々のニュースやオンライン情報のなかに性別や年齢への偏見が多く存在した場合、その偏見はデータとしてAIの訓練に用いられ、最終的に生み出されるコンテンツや予測、サービスも固定観念や差別を助長するような内容になる危険性があります。
この問題は、AIの開発環境やデータの中に、性別や人種、そして道徳観などの多様性が不足している事にも由来します。
現在は主にIT企業によってAIが活用されていますが、どのようなアルゴリズムで運用がなされているかは一般の人には全く分かりません。このようなブラックボックスの時代では、知らず知らずのうちに自分の価値観や好き嫌いが誘導されている可能性もあります。
また極端な場合として、仮に道徳感や透明性などが伴わずに少人数の思惑でAIが使われたとするとどうでしょうか?その社会に住む全ての人々が監視され、評点をつけられ、社会的な行動を操られる恐れもあります。
AIを使う仕組みを間違えてしまうと社会的なデメリットも大きくなることが分かると思います。
人工知能がSDGsに与える「経済的な」影響は?
つづいてAIが与える経済的な影響を見ていきましょう。
AIの経済面でのメリット
AIによってSDGsに関連する経済的なメリットも多く生れると考えられています。
✔︎AIによるSDGsへの経済面でのメリット
① 生産性の向上
② 労働の補助や労働力不足の解消
③ 人件費・データ運用コストの削減
① 生産性の向上
様々な業界において、AIを活用した製造の効率化や自動化により生産性が高まることが期待されています。一説によると、AIによって生み出される新しい経済効果は2030年までに1500兆円にものぼるともいわれ、産業におけるその影響は計り知れません。
参考:pwc
② 労働の補助や労働力不足の解消
単純作業や定型作業をAIに置き換えて自動化することで、負担が軽減するとともに労働力不足の解消にもつながります。特に農業や漁業など、人手が不足する業種では積極的に自動化を推し進めることで労働力不足を解消できる可能性があります。たとえばAIを搭載したドローンで農薬散布を自動化すれば農業の人手不足の改善になりますし、過去の質問内容を分析できるチャットボットを活用すれば、コールセンターなどの受付業務を自動化することができます。
③ 人件費・データ運用コストの削減
また、AIの導入は人件費やデータ運用の効率化などによりコスト削減にもつながります。経済的なメリットという点においてもAIの応用分野は様々です。
✔︎経済的なAIの応用分野の具体例
自動車、ヘルスケア、小売、金融、製造
テスラやグーグル、ウーバーなど先進的な自動車メーカーやソフトウェアメーカーがAIを実装した自動運転のテストを先行して行っています。
その他にも、社会的な意義と経済的な効果を期待して、ソフトウェア、Amazon、Google、Facebook、インテル、Microsoftなどの巨大企業がAIの研究開発に多額の投資を行っています。
また中国企業も同様に、非常に積極的に本分野への投資を強めており、競争はし烈さを増しています。経済的なメリットがある状況を鑑みると、世界のAIへの投資や開発はさらに加速すると考えられます。
AIの経済面でのデメリット
一方で、経済的な観点からAIによる不平等や格差の増加が懸念されています。
✔︎AIによるSDGsへの経済面での懸念点
① 経済的格差の拡大
② スキル保有差異の格差拡大
③ 企業資産の格差拡大
① 経済的格差の拡大
仮に未来の産業やビジネスが膨大なデータの分析によって成立する場合、データやデータを得るための資源は、所得が少ない人には扱いにくく、経済的な開きがさらに加速されてしまうという指摘があります。これはSDGs8、SDGs9、SDGs10への大きなデメリットになっていきます。
② スキル保有差異の格差拡大
また、このような傾向は、国家間だけではなく、国内の間でも起きるとされています。特にスキルを持っている人とそうでない人の格差が広がる可能性があります。
実際アメリカでは、1970年代と比較して、大学を卒業した人々の賃金が25%増加しているのに対して、高校を卒業していない人の賃金は30%も減少しています。
③ 企業資産の格差拡大
AIの発達に併せて、生産やサービスの自動化の動きも加速していきます。そのため、企業の収入は現場で働く人にはいかずに、富が企業を保有する人に集中していきます。
有名な例として、1990年代のビッグ3と呼ばれたアメリカ企業(GM, Ford, そしてChrysler)と現在のIT大企業( Google, Apple, そしてFacebook)の比較があります。
2014年における後者の売り上げは前者と同等であったにも拘わらず、その従業員はわずか9分の1で、時価総額(株式の価値)は30倍になっています。
これは、持てる人がさらに持つという、経済構造の根本的な問題として問題視されており、AIによる格差の拡大が懸念されています。
人工知能がSDGsに与える「環境への」影響は?
最後に、AIが環境に与える影響を見ていきましょう。
AIの環境面でのメリット
AIの環境面におけるメリットととしては、膨大で複雑なデータを解析して、自然環境や生物、資源を保護するための活動に生かすことが考えられます。
例えば、SDGs13の気候変動に関連して、気候の変化と潜在的な影響をモデル化して予測することで、どのような気候の変化が起こるか?どのような場所で災害が起こりやすいか?といった理解を深め、対策をたてることができます。
また、生態系を健全に保つために、問題が生じている個所を特定することも可能です。衛星からの画像をAIによって分析して、タンカーの座礁やその他事故による海洋汚染が起きている場所を特定することで、速やかな対応と環境の保全につながっていきます。
AIが海の豊かさ「SDGs14」に与える影響に関しては下記の記事でも紹介しています。
関連記事:【2022年版】人工知能(AI)がSDGs14「海の豊かさを守る」におよぼす影響を解説
森林伐採や土地の劣化にも同様な画像認識の技術が活用できます。既に、育てている野菜の種類を特定するところまでAI技術は進歩しており、この技術を応用することで砂漠化の抑制にも生かせるとされています。
最後に、AIは温室効果ガスを排出しにくいクリーンエネルギーを効率的に供給・使用することにも役立ち、結果として気候変動の抑制につながっていきます。
AIの環境面でのデメリット
ただし、AIには環境面でのデメリットも存在します。先ほど述べた通り、AIを実行させるためのエネルギー消費が膨大になる可能性があり、それらが自然エネルギーで賄えない場合、温室効果ガスにより気候変動が加速してしまいます。
また、AIによる生態系や環境汚染のモニタリングは、きちんと活用されれば生態系の保存は生物多様性の確保につながりますが、悪用されることも考えられます。価値の高い動物や環境資源の場所が特定され乱獲される恐れがあるのです。
AIの影響のまとめと私達にできること
AIのSDGsへの影響に関するまとめ
ここまで紹介してきたAIのSDGsへの影響をもう一度まとめておきます。
- SDGs169のターゲットのうち79%がAIによってよい影響があり、残りの21%程度の項目に悪影響が懸念される
- 社会的なメリット:都市としての機能を高める、健康の促進、教育サービスの普及、再生可能エネルギーを効率よく使う
- 社会的なデメリット:必要なエネルギーの消費、不平等や格差を増加させるリスク、ジェンダー平等やその他平等への影響に関しても注意
- 経済的なメリット:製造の効率化や自動化により生産性が高まる、労働力不足の解消、人件費やデータ運用の効率化などによりコスト削減
- 経済的なデメリット:不平等や格差の増加が懸念、スキルを持っている人とそうでない人の格差が広がる、富が企業を保有する人に集中
- 環境へのメリット:自然環境や生物、資源を保護するための活動に生かす、温室効果ガスを排出しにくいエネルギーの効率的に供給・使用する
- 環境へのデメリット:エネルギー消費が膨大になる可能性、価値の高い動物や環境資源の場所が特定され乱獲される恐れ
私達にできること
このような私たちの社会を劇的に変化させる可能性があるAIが発達している中、私達にできることは何でしょうか?
✔︎A IをSDGsに活用するために私たちにできること
・自分のデータの扱われ方を知る
・AI技術の活用例を偏見なく知る
AIがより良く活用され、私達の社会が豊かになっていくためには、個人個人がAIが自分に関する情報をどのように扱うかを自分たちで積極的に決められるようにするのが大切であると言われています。そのため、個人のプライバシーも含めて、自分のデータがどのように扱われているか、まずは意識をすることが大切です。
また、AIの開発速度は人類の歴史上もっとも早いと言われています。歴史を振り返ると、核反応の開発や実装に代表されるように、新しい技術はどのように扱うかが社会に恩恵をもたらすかどうかの鍵になっていきます。個人、政府、そして環境からの視点でより安全でリスクの低く、さらには多様性を保ったAIの活用が求められ、そのための政策や規制の枠組みが求められます。私達に出来ることととして、これまで述べたようにどのようなAIの技術がどのように私達の生活に影響しているのかをなるべく偏見なく知ることが大切な第一歩です。
将来は、AIやロボット産業によって、安全で快適な社会がつくられ、個人個人のものやサービスへのアクセスがさらにしやすくなり、環境やエネルギー問題の心配がなくなるのが理想です。その時には、人はより多くの時間を、自身の好奇心にもとづく創造的な作業や娯楽に費やしているかもしれません。
そのために、今できることはなにか?ぜひ、考えてみてください。
SDGsに特化したSNS「Sustty」では、様々なSDGsアクションを紹介しています。こちらも、本当に有効なのかなという視点ももって是非のぞいてみてください。
1人1人の影響は小さいかもしれませんが、みんなが取り組むと「チリも積もれば山となる」で、大きな影響になります。
ぜひこれらの活動を参考に、世界を持続可能にしていきましょう!
また、Sustty-noteのサイトでは、SDGsに関わる様々な情報を掲載しています。宜しければぜひご参考にしてください。